学級会で何かを決める際、「多数決」で物事を決定する場面をよく見かけます。
それなら私も知っています。多数決を使うと、時間内に話し合いが終わるし、便利ですよね。
確かに便利かもしれませんが、小学校の「学級会」で多数決を多用することは、非常に危険です。
…え?どういうことですか??危険!?
多数決が危険な理由
慶応義塾大学経済学部教授・坂井豊貴先生の著書の中で、「多数決」を使いすぎるとどうなるのか…ということが書いてあります。
長期のタイムスパンにおいて、集団の分裂を引き起こす可能性を高める
坂井豊貴(2016)「決め方」の経済学 − 「みんなの意見のまとめ方」を科学する − ダイヤモンド社
小学校の先生なら、この言葉の意味が、なんとなく理解できるのではないでしょうか。
多数決は「集団の分裂を引き起こす」のです。
それって、すごく怖くないですか?危険としか言いようがありません。
もちろん、
多数決を全面否定するつもりはありません。
多数決が有効な場面もあります。
それについても、これから考えていきたいと思います。
多数決の正体
多数決を「フェアなルール」だとする考えがある。今日は僕が勝ったから君が従ってくれ、明日は君が勝つかもしれないがそのときは僕が従う、といった考えだ。等しい条件のもとで互いに勝負するという意味のフェアである。多数決を公正な競争のルールと捉えるわけだ。
だが「明日は君が勝つかもしれない」と言っても、実態が「明日も君が負けるのは確実」ならば、いつまでも勝者は入れかわらない。少数民族や性的マイノリティは、いつまでも少数だろうから、等しい条件のもとでの勝負にならない。多数派の専制である。
坂井豊貴(2016)「決め方」の経済学 − 「みんなの意見のまとめ方」を科学する − ダイヤモンド社
学級会で「集会の遊び種目」を決める、話し合いをしていたとします。
ということです。
これは正直、
常に体育会系の子どもが提案する「ドッジボール」や「サッカー」に決まってしまうのではないでしょうか。
そうすると、文化系の子ども達は、学級会そのものが嫌いになってしまいますし、「どうせ数が多い方が勝つんでしょ」「なんて理不尽なんだ」という思いばかりを募らせます。
学校文化に対して「憎しみ」まで生まれるかもしれません。
「先生の意図性がない多数決」は、「特定の子どもを理不尽に傷つけかねない行為」だと言えます。
学校現場では、
「多数決は日本の選挙でも使われている、民主的な方法だ」という意見もよく聞きます。
確かにそうかもしれませんが、個人的には「思考停止状態」と感じざるを得ません。
(厳しい言い方かもしれませんが)
目の前で、納得がいかずに苦しむ子どもがいる現状を、「公的で現実的な方法だ」と片付けることがあっていいのでしょうか。
学校はリアルな社会に出る前の練習の場であり、何よりも子ども達の心のエネルギーを蓄える場です。
社会の荒波に立ち向かうエネルギーです。
厳しい現実に立ち向かう「強さ」や、失敗から立ち直るための「負ける悔しさ」を経験することは、当然必要です。
しかしそれは、
子どもが「自分で選んで行動したこと」に限る方が賢明だと思います。
子どもは、自分で選んだ道であれば、苦難を受け入れることもできると思います。
先生から提供された学習の場で、その場から逃げ出すこともできず、制限も多い状況下で、しかも全員参加の学級活動の場で、「数の力による明確な負け」を体験することが、本当に教育的なのか、私たちは慎重に吟味する必要があります。
また、私たちが気をつけることとして、
話し合い活動(学級会)でも、教科でも、先生の配慮不足で学習を「嫌い」にさせるようなことは、避けた方がいいのではないか、ということです。
そうならないように、先生は努力する必要があるのではないか、と考えるのです。
多数決の使い方
ひとつのヒントとしては、こうした言葉もあります。
多数決は「どうでもよいこと」を決めるのに向いている
坂井豊貴(2016)「決め方」の経済学 − 「みんなの意見のまとめ方」を科学する − ダイヤモンド社
どれに決まってもいい、と子どもが判断した事柄については、多数決も有効な手段だということです。
「これは多数決でサクッと決めてもいい?」と確認して、学級全体の雰囲気が「OK」な感じであれば、多数決をしましょう。
手早く決まって合理的だと思います。
でも実際の現場では、多数決に頼らなければならない場面も、多くあるのではないでしょうか?私のような新米は自信がありません。
確かにそうですね。では多数決をするなら、セットでこれもやった方がいい、という内容を紹介しておきます。全部やる必要はないので、使えそうなものを選んで実践してください。
目的(何のためにやるのか)を明確にしておく
学級会で集会活動をするとして、その集会の遊びを決めることが「目的」ではないはずです。
「仲良くなりたい」とか「みんなで協力したい」といった本来の目的があるはずです。
これを明確にしておくことで、
最終的に多数決で決まったとしても、実際の集会を実践する場面での、子どもの動きが変わってきます。
嫌々ながら参加していた子どもも、「仲良くなりたい」という目的を持って行動する仲間のおかげで、気持ちよく活動に参加できる可能性があります。
意見が通らなかった子どもへの「心遣い」を教える
例えば、
多数決で決まったときに「やったー!」「イェーイ!」という反応は、しないように指導しましょう。
意見が通らなかった子どもの気持ちを考えれば、その行動の意味はわかりますよね。
また、学級会後の準備や実践場面でも、意見が通らなかった子どもに配慮しながら活動を進めることも、伝えていいかと思います。
「実践活動が終わった後、全員が楽しかったと言えたら、大成功だよ」と伝えておきましょう。
決まった内容に「条件」を付ける
自分の意見が通らなかった子には、「これだけは絶対に嫌だ」とか「賛成したくない理由」が必ずあります(明確に)。
例えば「ドッジボール」に反対であれば、「ボールが怖い」「あてられて外野に出たあとがヒマ」などです。
それに対して、「柔らかいボールでやる」「外野に出た後、3分後には復活していい」といった条件(ルール)を考えていきます。
そして、
子ども達同士で、「このルールをつけたらどうかな?」と歩み寄る方法を考える場をつくります。
多数決の約束は確認しておく
一般的な約束としては
といった感じでしょうか。
これでも完璧ではありませんが…。
多数決になりそうな場合は事前に伝えておく
先生であれば、「今日の内容は多数決での合意形成になりそうだな」といったことの予想がつくはずです。
ですから、事前にそれを伝えておいて、
「どちらに決まっても納得ができるように、言い残すことがないように準備しておいてね」と確認しておきます。
少し力技ですが…。
また、「多数決で決まった後は、もう不満を言わずに活動に協力してほしい」ということも、伝えておきましょう。
そもそも、どうやって決めるかは子どもが考える
合意形成の場面で、子どもに「どうやって決めますか?」と投げかけているでしょうか。
多数派の子ども達は、すぐに「多数決」と言うでしょう。その時に先生はどうしていますか?
学級の風土として、「悲しむ人が1人でもいるなら実践しない」という雰囲気はあるでしょうか。
私は、はっきりとそう伝えています。
だからこそ、みんなで脳みそに汗をかいて、
「みんなが幸せになるアイディア」を考えるのです。
この件については今回の趣旨からは外れるので、詳述しません。
興味がある方は
【ワクワクする楽しい話し合い活動】の記事も読んでみてください。
多数決以外の決め方
坂井豊貴先生の著書では、様々な決め方についても紹介しています。
その中でも最も民主的で、実用的な方法が…
この方法について詳しく知りたい方は、ぜひ坂井先生の著書を読まれてください。
すごくわかりやすく書いてあります。
簡単に説明すると…
ボルダルールで選ばれた選択肢は、
「万人にとってそれなりに満足できるもの」が選ばれる仕組みになっています。
逆に、「一定数が絶対に嫌だと感じている選択肢」は選ばれない仕組みになっています。
決め方について知ろう
「決め方」については、私たちは、もっとよく知る必要があります。
「決め方が変わると、結果が変わる」ということも、皆さんはご存知でしょうか。
全く同じ人同士で、同じ時に何かを決めたとしても、決め方によって決定内容が全て変わります。
坂井先生の著書の中で、わかりやすく説明されています。
A,B,Cの選択肢について、多数決、決選投票、ボルダルールで決めた場合では、全て結果が変わるのです。
同じ人同士であるにも関わらず、ですよ。
そもそも、学級会の在り方を考えよう
学級会では「いくつかの選択肢から何かを選ぶ」という話し合い活動をよく見かけます。
これを合意形成する方法は、おそらく合体案(統合案)ではないでしょうか。
つまり、
「いくつかの選択肢から何かを選ぶ」という話し合い活動をしていたのでは、毎回「どうやって合体(統合)するか」を考える時間となってしまいます。
学級会って「選んだり、決めたりすること」を学ぶ場なの?
そうではないと思います。
学級会は「全員で新しいアイディアを創り出す場」であり、「全員で新しい価値に気づく場」です。
そして、
学級活動自体が、高度な問題解決学習の場なのです。
意見を合体させる、多数決をする、といったことが常態化した学級会や学級活動では、高度な問題解決を学ぶ場とはなりません。
子ども達も毎回同じような活動ばかりしていたのでは、ワクワク感がなくなっていきます。
私は、こうした「いくつかの選択肢から何かを選ぶ」という話し合い活動のことを
「2項対立的な話し合い活動」
と呼んでいます。
こうした話し合い活動は、学級活動の入門期(先生の)だけでいいかと思います。
そこで、私からは
「創り出す話し合い活動」を提案します。
興味がある方は
【ワクワクする楽しい話し合い活動】の記事も読んでみてください。